Top / 歯科技工の海外委託問題訴訟判決




2007年6月22日提訴
2008年6月20日結審

2008年9月26日
東京地裁第606号法廷
午後1時15分判決言い渡し




判決速報

1 原告らの本件確認の訴えをいずれも却下する。
2 原告らのその余の訴えに係る贈求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告らの負担とする。

大変無念な結果ですが、控訴をするようです。


事案の概要

 本件は,歯科技工士である原告らが,被告に対し,

(1)歯科医師による歯科技 エの海外の集者への委託により歯科技工士の免許を有しない海外の業者が作成した補てつ物等が輪入されて歯科医療に使用される事態が生じており,被告がこれを放置しているため,原告らの歯科技工士としての地位が侵害されているとして、被告による適切な監督権限の行使がされるよう,「海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」の確認を求める(本件確認の訴え)とともに,

(2)上記(1)の海外の業者への委託及び輸入・使用につき実態を調査して規制をすぺき義務に違反し,これを歯科医師の自由裁量にゆだねて事実上許容するなど,被告の違法な行為により原告らは精神的苦痛を受けているとして,国家賠償法1条1項に基づき,各原告につき慰謝料各100万円のうち10万円及び遅延損害金の支払を求めている(本件陪償請求)事案である.


判決文

平成20年9月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平口頭弁論終結日 平成20年6月20日
成19年(行ウ)第413号損害賠償等請求事件

判     決

原 告 別紙原告目録記載のとおり

告ら訴訟代理人弁護士          工藤 勇治
同 川上 詩朗
原告ら訴訟復代理人弁護士 岩崎 泰一
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被 告 国
代表者法務大臣 森 英介
指 定 代 理 人 名島 享卓
同 浅川 晃
同 山本 浩光
同 鳥山 佳則
同 和田 康志

主    文
1 原告らの本件確認の訴えをいずれも却下する。
2 原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は, 原告らの負担とする。

事 実 及 び 理 由

(本件確認の訴え)

1 原告らと被告との間で, 原告らに海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることを確認する。

(本件賠償請求)

2 被告は,原告らに対し,各白10万円及びこれに対する平成19年7月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は, 歯科技工士である原告らが, 被告に対し, (l)歯科医師による歯科技工の海外の業者への委託によ り歯科技工士の免許を有しない海外の業者が作成した補てつ物等が輸入されて歯科医療に使用される事態が生じており, 被告がこれを放置しているため, 原告らの歯科技工士と しての地位が侵害されているとして. 被告による適切な監督権限の行使がされるよう, 「海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」の確認を求める(本件確認の訴え)とともに,(2)上記(l)の海外の業者への委託及び輸入・使用にっき実態を調査して規制をすべき義務に違反し, これを歯科医師の自由裁量にゆだねて事実上許容するなど, 被告の違法な行為により原告らは精神的苦痛を受けているとして, 国家賠償法1条1項に基づき, 各原告につき慰謝料各100万円のうち10万円及び遅延損害金の支払を求めている(本件賠償語求)事案である。

1 関連法令の定め

(1) 歯科技工士法

ア 歯科技工士法は,歯科技工士の資格を定めるとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医療の普及及び向上に寄与することを目的とする(同法1条)。

イ(ア) 同法において, 「歯科技工」とは,特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物, 充てん物又は矯正装置を作成し, 修理し, 又は加工することをいう。 ただし, 歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く (同法2条1項)。

(イ) 同法において, 「歯科技工士」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,歯科技工を業とする者をいう (同条2項) 。

(ウ) 同法において, 「歯科技工所」とは,歯科医師又は歯科技工士が業として歯科技工を行う場所をいう。 ただし, 病院又は診療所内の場所であって, 当該病院又は診療所において診療中の患者以外の者のための歯科技工が行われないものを除く (同条3項) 。

ウ 歯科技工士の免許(以下「免許」という。)は,歯科技工士試験(以下「試験」という。)に合格した者に対して与える(同法3条)。

エ 歯科医師又は歯科技工士でなければ, 業として歯科技工を行つてはならなぃ(同法17条1項)。

オ(7) 歯科医師又は歯科技工士は, 厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示審によらなければ, 業として歯科技工を行つてはならなぃ。 ただし, 病院又は診療所内の場所において, かつ, 患者の治療を担当する歯科医師の直接の指示に基づいて行う場合は, この限りでない (同法. 18条)。 .

(イ) 病院,診療所又は歯科技工所の管理者は,当該病院,診療所又は歯科技工所で行われた歯科技工に係る上記いの指示書を, 当該歯科技工が終了した日から起算して2年間, 保存しなければならない (同法19条) 。

カ 歯科技工士は,その業務を行うに当たっては.印象採得,咬合採得,試適, 装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない(同法20条)。

キ(ア) 歯科技工所を開設した者は,開設後10日以内に,開設の場所,管理者の氏名その他厚生労働省令で定める事項を歯科技工所の所在地の都道府県知事 (その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合にあっては,市長又は区長。以下,後記(ウ)ないし切において同じ。) に届け出なければならない(同法21条1項)。

(イ) 歯科技工所の開設者は, 自ら歯科医師又は歯科技工士であってその歯(科技工所の管理者となる場合を除くほか, その歯科技工所に歯科医師又は歯科技工士たる管理者を置かなければならない (同法22条) 。

 (ウ) 都道府県知事は, 歯科技工所の構造設備が不完全であって, 当該歯科技工所で作成し, 修理し, 又は加工される補てつ物, 充てん物又は矯正装置が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは, その開設者に対し, 相当の期間を定めて, その構造設備を改善すべき旨を命ずることができる(同法24条)。

(エ) 都道府県知事は, 歯科技工所の開設者が上記(明に基づく命令に従わないときは, その開設者に対し, 当該命令に係る構造設備の改善を行うまでの間, その歯科技工所の全部又は一部の使用を禁止することができる(同法25条)。 ・

(オ)都道府県知事は,必要があると認めるときは,歯科技工所の開設者若しくは管理者に対し,必要な報告を命じ,又は当該職員に,歯科技工所に立ち入り, その清潔保持の状況,構造設備若しくは指示書その他の帳簿審類 (その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。 ) を検査させることができる(同法27条)。

ク 上記工の定めに違反した者は, 1年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する(同法28条1号)。

ケ 上記オの(ア)又は(イ)の定めに違反した者は, 30万円以下の罰金に処する(同法32条2号, 3号)。

(2) 厚生労働省設置法

ア 厚生労働省は, 国民生活の保障及び向上を図り, 並びに経済の発展に寄与するため, 社会福祉, 社会保障及び公衆衛生の向上及び増進並びに労働条件その他の労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ることを任務とする(3条)。

イ厚生労働省は,上記アの任務を達成するため,医療に関し,次に掲げる事務等をつかさどる(4条)。

(ア)医療の普及及び向上に関すること(同条9号)。

(イ) 医療の指導及び監督に関すること(同条10号)。

(ウ) 医師及び歯科医師に関すること(同条12号)。

(エ)保健師,助産師,看護師,歯科衛生士,-診療放射線技師,歯科技工士,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,視能訓練士,臨床工学技士, 義肢装具士, 救急救命士, 言語聴覚士その他医療関係者に関すること(同条13号)。

(オ) 医薬品, 医薬部外品, 医療機器その他衛生用品の研究及び開発並びに生産, 流通及び消費の増進, 改善及び調整並びに化粧品の研究及び開発に関すること(同条15号)。

(カ) 医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器その他衛生用品の製造販売業,製造業,販売業,,賃貸業及び修理業(化粧品にあっては,研究及び開発に係る部分に限る。)の発達,改善及び調整に関すること(同条16号)。

(キ) 医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器その他衛生用,品の品質,有効性及び安全性の確保に関すること(同条31号)。

2 前提となる事実 (当事者間に争いがない事実並びに掲記の証拠により容易に認められる事実)

(1) 原告らは, 社団法人東京都歯科技工士会に所属する歯科技工士である。

(2) 社団法人東京都歯科技工士会は, 近時, 海外において作成された歯科医療用の補てつ物,充填物,矯正装置など(以下「補てつ物等」という。)が輸入されて歯科医療に使用されていること (以下「補てつ物等の輸入使用」 という。) を,歯科技工を海外の業者に委託していること (請求の趣旨第1項にいう「海外委託による歯科技工」。以下「歯科技工の海外委託」ともいう。)によるものと位置付け,平成16年7月13日, 「歯科技工行為の海外委託の是正」を目的とした「遵法・歯科技工行為の海外委託問題対策本部」を設置した。

(3) 上記(2)の「遵法・歯科技工行為の海外委託問題対策本部」の構成員らは,社団法人日本歯科技工士会等の関係団体と協議の上, 平成17年3月11日, 厚生労働省医政局歯科保健課を訪れ, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用(以下「海外委託及び輸入使用」ともいう。)は違法であるとして, 行政上の指導・取締りを行うよう申し入れ,その後も再度,同旨の申入れを行った。 .

(4) 厚生労働省は,近年,インターネットの普及等に伴い,国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入し (輸入手続は歯科医師自 らが行う場合と個人輸入代行者に委任する場合がある。 ) , 患者に供する事例がみられるとして,平成17年9月8日,各都道府県衛生主管部(局)長に対し, 「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」 と題する下記の内容の通達(医政歯発第0908001号)を発出し(甲1。以下「本件通達」という。), これを同省のインターネットホームページに掲載した。(甲1,乙8)

「歯科疾患の治療等のために行われる歯科医療は, 患者に適切な説明をした上で, 歯科医師の素養に基づく高度かつ専門的な判断により適切に実施されることが原則である。

歯科医師がその歯科医学的判断及び技術によりどのような歯科医療行為を行うかについては, 医療法(昭和23年法律205号) 第1条の2及び第1 条の4に基づき, 患者の意思や心身の状態, 現在得られている歯科医学的知見等も踏まえつつ, 個々の事例に即して適切に判断されるべきものであるが, 国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入し, 患者に供する場合は, 患者に対して特に以下の点についての十分な情報提供を行い,患者の理解と同意を得るとともに, 良質かつ適切な歯科医療を行うよう努めること。

1)当該補てつ物等の設計
2) 当該補てつ物等の作成方法
3)使用材料(原材料等)
4) 使用材料の安全性に関する情報
5) 当該補てつ物等の科学的知見に基づく有効性及び安全性に関する情報
6) 当該補てつ物等の国内外での使用実績等
7)その他,患者に対し必要な情報」 .

3 争点

(1) 本件確認の訴えの適法性等

ア 法律上の争訟性の有無

イ確認の利益の有無(確認対象の適否)

ウ 確認請求の当否

(2) 本件賠償請求の成否

4 争点に関する当事者の主張

(l) 争点(l)(本件確認の訴えの適法性等)について

(原告らの主張の要旨)

ア 法律上の争訟性の有無

 歯科技工士は, 歯科技工士法により, 業務を独占する法的地位が保障されている(経済的には, 歯科医師から業務を独占的に受託し, 報酬を受け取ることができる地位が保障されている。)。このため,歯科医師は,国内では, 歯科技工士以外の者に歯科技工を委託することはできない。 しかしながら, 歯科医師が海外委託及び輸入使用をすることによって, 歯科技工士の上記法的地位が侵害されており,これを契機として,原告らの上記法的地位に不安が生じている。 海外委託及.び輸入使用は歯科技工士法の規定及び趣旨に反して違法であり禁止されるべきであり, そのことが裁判によって確認され, それによって被告による適切な監督撞限の行使がされるならば, 原告ら歯科技工士の上記法的地位への脅威が除去されて救済されることになる。

 本件において,原告らは, こうした法的地位が保全されるべき権利の確認を求めるものであるから, 本件は, 法律上の争訟に当たる。

イ確認の利益の有無(確認対象の適否)

 歯科技工士法の上記趣旨にかんがみれば, 歯科技工の海外委託及び輸入使用は禁止されており, 歯科技工士は,歯科技工士法により, 業務を独占する法的地位が保障されている。しかしながら, 歯科医師が海外委託及び輸入使用をすることによって,歯科技工士の上記法的地位が侵害されている。 この点について被告が発出した本件通達は, 海外において, 歯科技工士法に係る資格がない者によって, 指示書の交付を受けず, 都道府県知事等の監督が及ばない場所での歯科技工を許容し, それにより作成された歯科技工物の使用については, 歯科医師の自由裁量にゆだねる内容となっており, 補てつ物等の輸入使用を許容し, 歯科技工士の上記法的地位を侵害するものとなっている。 そのため, 業者が海外委託を斡旋し, 歯科技工の海外委託は増加しており, 原告らの存立基盤である業務独占が崩れ始め, それに伴い, 独占的に業務を受託し報酬を得る地位も脅かされている。 海外委託及び輸入使用は歯科技工士法の規定及び趣旨に反して違法であり禁止されるべきであって, そのことが裁判によって確認され, それによって被告による適切な監督権限の行使がされるならば, 原告ら歯科技工士の上記法的地位への脅威が除去されて救済されることになる。本件の確認訴訟によって, 原告らの上記地位が確認されたならば, 国は,海外委託及び輸入使用を禁止する措置をとらざるを得なくなり, 原告らの業務独占に対する危険が除去される。 したがって, 原告らは, 上記業務を独占する法的地位の確認を求める法的利益がある。

ウ 確認請求の当否

 歯科技工士法において, 海外委託及び輸入使用は禁止されており, 歯科技工士である原告らには, 被告による海外委託及び輸入使用に対す・る適切な監督権限の行使がされることによって, 前述の歯科技工士としての地位を保全されるべき権利がある。

(被告の主張の要旨)

ア 法律上の争訟性の有無

 裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は, 裁判所法3条1項にいう 「法律上の争訟」 , すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって, かつ, それが法令の適用により終局的に解決できるものに限られる。歯科技工士法は, 国民の公衆衛生を確保するために歯科技工に関して資格制を採用しているのであり, このことから, 直ちに, 個々の原告らの固有の法的利益が導かれるものではない。 海外委託及び輸入使用により国内の歯科技工士制度や国民の歯科衛生の確保に重大な影響を与えることになるおそれがあるとしても, これにいかなる規制をすべきかは, 行政府ないし立法府の専権に属する事柄である。 原告らは, 結局, 国民一般の立場において,海外委託問題が歯科技工士制度や国民の歯科衛生に重大な影響を与えることから, 海外委託及び輸入使用を禁止するよう求めているのに等しく, このような訴えは,具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争について審判を求めるものではない。

イ確認の利益の有無(確認対象の適否)

 行政事件訴訟法4条に基づく確認の訴えが認められるためには, 現に原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し, これを除去するために被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限られる。

 しかしながら, 歯科技工士の資格を有する地位から, 直ちに個々の原告らの固有の法的利益が導かれる関係は認められない。 原告らは, 結局, 国民一般の立場において,海外委託問題が歯科技工士制度や国民の歯科衛生に重大な影響を与えることから, 海外委託及び輸入使用を禁止するよう求めているのに等しく, 原告らの主張する歯科技工士の資格を有する者という地位に現実かつ具体的な危険又は不安が存在すると主張している とはいい難い。

 また, 歯科技工士法上, 海外委託及び輸入使用が禁止されているかどうかを確認しても, そのことで, 個々の原告らの固有の法的利益が確保されるという関係にもない。 また, 仮に海外委託及び輸入使用が違法であり, かつ, 将来これらの弊害により, 個々の原告らに何らかの経済的利益の侵害が生じるおそれがあるとしても, 歯科技工士の地位に関する確認判決を得たところで, 直ちに原告らの権利利益に変動をもたらすものではなく, そのような確認判決を得ることが必要かつ適切ともいえない。

ウ 確認請求の当否

 上記ア及びイのとおり, 本件確認の訴えについては本案の答弁を要しないが, 海外委託及び輸入使用と歯科技工士法との関係については, 後記(2)(被告の主張の要旨) アのとおりである。

(2) 争点(2)(本件賠償請求の成否)について

(原告らの主張の要旨)

ア 被告の行為の違法性の有無

(ア) 法律上又は条理上の義務の有無

 a 歯科技工士法は, 無資格者が歯科技工を行うこと及び指示書によらずに歯科技工を行うことを禁止し, 指示書の保存義務を定めて歯科技工所を規制する規定を設けているところ,こうした要請は,当該歯科技工が行われるのが国内である場合と海外である場合とで異ならない。 また,歯科技工士法が,歯科技工所の開設に,その所在地の都道府県知事への届出を必要とし, 都道府県知事の指導監督を及ぼそうとしていることによれば, 同法は, 歯科技工が国内で行われることを前提としている。こうした点にかんがみれば,歯科技工士法又は条理上,海外委託及び輸入使用は禁止されていると解すべきである。

 のみならず, 歯科技工士法が, 歯科医師又は歯科技工士でなければ業として歯科技工を行つてならなぃとし(同法17条),かつ,歯科医師又は歯科技工士は, 厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ, 業として歯科技工を行つてはならなぃとしてぃる(同法18条)ところ,歯科技工の海外委託は,上記指示書の交付がされないまま行われていることによれば, 歯科医師が, 海外で歯科技工を行わせることも禁止されていると解されるべきである。そして, 社団法人東京都歯科技工士会が, 繰り返し海外委託及び輸入使用の問題点を指摘し, その改善を求めているいることによれば, 被告は, 海外委託及び輸入使用の実態を調査し, これを規制するよう指導すべきである。

b 本件通達によれば, 被告は, 国外で作成された補てつ物等について,使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確でなく, 国内の有資格者による作成でないことが考えられることや, 国内の歯科技工士の知職及び技術の水準より劣位にあるものが国外で補てつ物等を作成している可能性がなぃわけではなぃとしており, 国内の公衆衛生上問題があることを把握しているのであるから, 補てつ物等の輸入使用の実態について調査をすべき作為義務があった。

c また, 前記のとおり, 歯科技工士法は, 日本国内に設置された歯科技工所においてのみ歯科技工を認め, それ以外の場所での歯科技工は禁止する趣旨であることからすれば, 海外での歯科技工は, 資格の有無を問わず,禁止されるべきである。したがって,被告としては,海外で歯科技工が行われている実態が把握できたならば, 速やかに, それを規制するよう指導すべき義務を負っていた。

d さらに,前記のとおり,歯科技工士法によれば,国の内外を問わず,無資格者が歯科技工を行うことは認められてぃなぃし, 無資格者に歯科技工を行わせることも認められない。 したがって, 被告は,無資格者が歯科技工を行ったり, 無資格者に歯科技工を行わせている実態が把握されたならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。

e 前記のとおり, 歯科技工士法によれば, 歯科技工を行う場合には歯科医師の指示書が必要であるから, 指示書がないまま歯科技工を行うことは認められていないし, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせることも認められない。 したがって,被告は,海外において指示書なしで歯科技工を行ったり, 指示書を交付せずに歯科技工を行わせている実態を把握したならば, 速やかに, それを規制するように指導すべき義務を負っていた。

(イ) 法律上又は条理上の義務違反の有無

a 被告は, 海外委託及び輸入使用について, 国外で作成された補てつ物等について使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確ではなく,我が国の有資格者による作成でないことや,国内の歯科技工士の知的i及び技術の水準より劣位にある者が国外で補てつ物等を作成している可能性がなぃわけではなぃことなど, 国民の公衆衛生上問題があることは認識している。しかしながら,被告は,海外委託及び輸入使用の実態を把握しておらず, これに係る十分かつ正確な情報を収集するっもりはなぃ態度を示している。

b また,被告は,本件通達において,各都道府県衛生主管部(局)長に対して, 「患者に対する十分な情報提供を行い, 患者の理解と同意を得るとともに,良質かつ適切な歯科医療を行うよう努める」ように歯科医師を指導するよう指示し, それを同省のインターネットホームページに掲載しただけであり,.それ以外の指導は行つていなぃ。

(ウ) 憲法14条違反の有無国は, 無資格者が歯科技工を行うことについて国内では厳しく規制しているのに対し,海外ではこれを許容しているが,こうした差別に合理的な理由はない。このような区別は,窓法14条に違反する。

イ 原告らの損害の有無

(ア) 歯科技工士法は,歯科技工士の歯科技工士業務の独占を認め,歯科技工士としての法的地位の確立向上を図るとともに, 国民の公衆衛生の確保を図ろうとしているが, これは被告の上記の義務違反により脅かされており, これにより, 個々の原告らも, 自らの生活基盤である業務独占が完全に崩壊するのではないかとの不安を抱かざるを得ない状況に置かれるようになっており,精神的苦痛を受けている。

 また, 海外委託及び輸入使用に対して何らの規制も及ばないとするならば, 無資格者による粗悪な補てつ物等が歯科医療の用に供されるおそれがあるところ, これは, 国民の公衆衛生を害するおそれがあるものであり, 歯科技工士である原告らにとって耐え難い苦痛である。 原告らは繰り返し被告に対し是正を求めてきたが, 現在に至るまでに是正されていない。 このことは原告らの苦痛を更に増大させている。

(イ) 被告は, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償の要件である旨主張するが, 国家賠償法は, 単に違法性を要件とする旨定めているだけであり, 「職務上の法的義務」 を要件とすべき根拠はない

(ウ) 仮に, 公務員の職務上の法的義務に違背した行為の存在が国家賠償請求の要件であったとしても, 被告は歯科技工に関して指導監督する権限と責任を有しているので (厚生労働省設置法3条1項, 4条9号, 10 号, 12号, 13号, 81号),被告は,歯科技工士法上ないし条理上, 海外委託及び輸入使用について調査し, その実態を把握した上で, 海外委託及び輸入使用を禁じている歯科技工士法ないし条理に適合するように, 海外委託及び輸入使用を止めるように指導すべき義務を負っており, この義務は, 歯科技工士としての資格を有する個々の原告ら個人に向けられたものである。

(被告の主張の要旨) .

ア 被告の行為の違法性の有無

(ア)法令上又は条理上の義務違反の有無

 歯科技工士法が禁止しているのは, 本邦において歯科医師又は歯科技工士以外の者が業として歯科技工を行うことであって, 歯科医師が診療中の患者に対し自らの責任において海外で作成された補てつ物等を用いることを禁止するものではない。 歯科医師が海外で製作された補てつ物をその歯科医療行為に使用するのは, 歯科技工士法2条だたし書にいう「歯科医師がその診療中の患者のために自ら行う行為」 に当たり, 同法の適用を受けないことは, 同法上も明らかである。歯科医師が, 国外で作成された補てつ物等を輸入して患者に提供する場合は, 歯科技工士法上は, 歯科医師自らが歯科技工を行う場合に属する問題であって, 患者を治療する歯科医師が歯科医学的知見に基づき適切に判断し, 当該歯科医師の責任の下, 安全性に配慮した上で実施されるべきものである。こうした歯科医師の診療行為は,歯科医師法等により規制されるのであり, 歯科技工士法による規制を受けるものではない。

(イ) 憲法14条違反の有無

 歯科技工士法は, 国内における歯科技工に関して不当な規制ないし取扱いをしているものではなく, 海外による無資格者による歯科技工の問題について, いかなる規制を行うかは立法府の裁量の範囲内に属する事柄である。 補てつ物等の作成に係る制度は国によって様々であり, また国外で補てつ物等を作成する者の知識及び技術の水準も様々であるため, 国外で作成された補てつ物等を用いることのみをもって, 直ちに国内の歯科技工士との間において, 不合理な扱いが認められるものではない。

イ 原告らの損害の有無

(ア) 国家賠償法上の違法が認められるためには, 公務員が法律上保護された権利利益を侵害したことが必要である。 そして, この権利利益の侵害の有無については, 権利ないし法的利益を侵害された当該個別の国民に対する関係で, 職務上の法的義務に違背する行為があるか否かが判断されるべきであり, 職務上の法的義務であっても, 専ら公益的なものや行政の内部的な義務等, 個別の国民に対して負担する義務でなぃものにっいては, 国家賠償法上の違法の判断の対象とならなぃとぃうべきである。しかしながら, 原告らは, 海外委託及び輸入使用が国民の公衆衛生を害するおそれがあることによる苦痛をいうにすぎず, 結局, 国民一般が有する地位に基づいて主張するものであって, 個別の国民が有する具体的な法的利益を主張するものではない。 本件では, 海外委託及び輸入使用について, 歯科技工士制度を維持し, 国民の公衆衛生の確保に資するとの観点から適正な規制が求められるとしても, それは国民一般との関係で広く求められる事柄であって, そのことから直ちに, 原告らに向けられた職務上の権限を行使すべき法的義務を観念することはできない。

(イ) なお, 歯科医師が行う歯科診療行為以外の歯科技工は歯科技工士法の適用を受けるところ, 歯科技工の業が歯科医業を補足する性質のものであり, できれば歯科医師自らが歯科医療行為の一環として行うことが本来の姿であることからすると, 同法17条1項は, 歯科医師についても業として歯科技工を行うことができる旨定めたものと解することができる。 このように,歯科技工士法が歯科医師が行う歯科技工を含む歯科診療行為を規制の対象から除外しているのであるから, 同法が, 歯科技工士による業務独占及びこれによる経済的利益を保障するものであるとぃうことはできなぃ。

第3 当裁判所の判断

1 歯科技工士法の規制の趣旨等について

(1) 歯科技工士法は, (:f)〇科技工士の資格を定めるとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医療の普及及び向上に寄与することを目的とし(同法1条),∋科技工の業務にっき,その主体を歯科医師又は歯科技工士 (厚生労働大臣の免許を受けた者) に限定し, その実施を歯科医師の指示書又は直接の指示による場合に限定した上で (同法2条2項, 17条1項, 18条1項),病院,診療所又は歯科技工所の管理者に上記指示書の一定期間の保存を義務付け(同法19条),これらの規制の違反に対しては刑事罰の制裁を設けるとともに, E堝刺楔知事に,(a)歯科技工所の開設者又は管理者に対し, 必要に応じて報告を命じ, 清潔保持の状況, 構造設備又は指示書その他の帳簿審類の検査を実施する権限を付与した上で, (b)歯科技工所の構造設備又はその作成等に係る補てつ物等が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは, その構造設備にっき改善命令を発し, その違反に対しては歯科技工所の使用禁止命令を発する権限を付与しており, Cイ)他方で, 歯科技工士が国に対し上記t「)△竜制に係る措置にっき何らかの請求等をすることを認めた規定は存しない。そして, 歯科医師法は,歯科医師につき, 歯科医療及び保健指導を掌ることによって, 公衆衛生の向上及び増進に寄与し, もって国民の健康な生活を確保することをその任務として定めている。

 また,証拠(甲2並びに乙1, 2及び7)によれば,‐赦30年の歯科技工士法の制定当時, 義歯等の補てつ, 充てん及び矯正に属する歯科治療技術の需要が高まったにもかかわらず, 歯科医師の数がこれを満たすには十分 でないため, 補てつ物等の作成, 修理又は加工を外部の技工者に委託する場合が多くなっていたが, これらの受託者については法的規制が加えられておらず, 職業教育を受けた者は少数で, 大部分は徒弟見習として習熟した者であるなどの実情にかんがみ, 歯科技工士の資格を定め, その資質の向上を図るとともに,歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し,歯科医師の業務の適正を補足させることによって, 歯科医療の普及と向上に寄与することが, 同法の法案の提案理由であったことが認められ, ⊂赦30年10月12日厚生省発医第110号各都道府県知事宛て厚生事務次官通知(乙7) には,同法の制定の趣旨等について,(a)同法は,歯科技工士の資格を定めてその資質の向上を図るとともに, 歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し, もって歯科医師の業務が適正に補足されることを目的とするものであること, (b)歯科技工の業務は高度の専門的技術が要求されるものであるにもかかわらず, それまで何らの規制が行われることなく放任されていたため, 粗悪な補てつ物等が作成され, 歯科医療に多くの支障を来した事情にかんがみ, 歯科技工の業務は歯科医師及び歯科技工士の業務独占としたものであること等が記されている。

(2) 以上の歯科技工士法及び関係法律の諸規定並びに制定の趣旨等に照らすと,歯科技工士法が歯科技工の業務の主体を歯科医師及び免許を受けた歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けたのは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 業務独占の結果として一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという経済的利益は, 上記目的に基づく当該規制の結果として随伴する事実上の利益にとどまり, 同法において個々の歯科技工士の個別的利益として保護された法律上の利益に当たるものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制にっき具体的な措置の実施を請求する権利は認められていないものと解するのが相当である。 また, 国の所轄行政庁が当該規制にっき具体的な措置を行うに当たっても, その具体的な措置の方法・ 内容については, 公衆衛生の保持という公益的・公共政策的な観点から諸般の事情を総合考慮した上で決定されるべき性質のものであるから, その方法・内容は法令上一義的に定まるものではなく, 当該行政庁の合理的な裁量にゆだねられるものと解される。

(3) これに対し, 原告らは, 歯科技工士法が歯科技工士の業務独占を認めていることから, 同法が, 個々の歯科技工士に対し, 業務を独占的に受託して報酬を得る法的地位を付与しており, 原告らの歯科技工士としての上記地位を保全するために, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の禁止を求める権利がある旨主張する。しかしながら, 原告らが上記 「法的地位」 と主張するものが, 同法による業務独占の結果と して一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益にとどまり, 法的な権利又は利益と認め得るものではなく, 同法上, 個々の歯科技工士が国に対し当該規制にっき具体的な措置の実施を求める権利は認められていないことは, 上記(2)に説示したとおりである。 .

(4) 以上を前提として,以下,本件確認の訴えの適法性等(争点(1))及び本件賠償請求の成否(争点(2))について,順次検討する。

2 本件確認の訴えの適法性等(争点(1))について

(l) 法律上の争訟性の有無について

ア 裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は, 裁判所法3条1項にいう 「法律上の争訟」 に限られるところ, ここにいう 「法律上の争訟」 とは, 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって, かつ, 法令の適用により終局的に解決することができるものに限られ(最高裁平成10年(行ツ)第239号同14年7月9日第三小法廷判決・民集56巻6号1134頁参照),このような具体的な紛争を離れて抽象的に法令の解釈又はそれに基づく 行政庁の運用の当否の判断を求めることは許されないと解するのが相当である。

イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 歯科技工士である原告らの上記法的地位が侵害されているので, 原告らに 「海外委託による歯科技工を禁止することによって, 歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 があることの確認を求める本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たる旨主張する。 しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると,・上記事項の確認を求める本件確認の訴えは, 要するに, 歯科技工士法の解釈 (同法自体の解釈又は憲法14条に則した合意的解釈)として,歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈を採るべきことの確認を求めるに帰するものというべきであり, 原告らが 「歯科技工士としての地位が保全されるべき権利」 と主張するものも, 上記のような解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争の存在を観念し得るものではなく, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく法令の適用自体によって終局的に解決し得る事柄でもない以上, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 法律上の争訟に当たらないと解するのが相当である。

(2) 確認の利益の有無について

ア 確認の訴えにおける確認の利益は, 判決をもって法律関係の存否を確定することが, その法律関係に関する法律上の紛争を解決し, 当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められ(最高裁平成14年(受)第1244号同16年12月24日第二小法廷判決・判例時報1890号46頁参照),確認の利益があるといえるためには, 確認の対象とされた事項が法律関係の存否に係る適切な内容のものであり, かつ, 当事者間で当該事項を確定することにっき当該訴えを提起した者が法律上の利益を有することが必要であって, 単なる事実上の利益では足りないと解するのが相当である。

イ 原告らは, 歯科技工士法は歯科技工士である原告らに業務を独占する法的地位を保障しているところ, 被告が発出した本件通達が, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容し, 歯科医師の裁量にゆだねる内容のものであったため, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用が増加し, 歯科技工士の上記法的地位が侵害され, 独占的に業務を受託して報酬を得る地位も脅かされていることから, 上記法的地位の確認を求める利益がある旨主張する。  しかしながら, 前記1に説示したところにかんがみると, 原告らが上記「法的地位」 及びその 「地位が保全されるべき権利」 と主張するものは, 要するに, 歯科医師による歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は禁止されるとの解釈が採られることが, これに沿った行政上の措置を通じて, 一般に歯科技工士が安定的に業務の委託と報酬を受け得るという事実上の利益に資することをいうに帰するものといわざるを得ず, 各原告と被告との間に具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する法律上の紛争の存在を観念し得るものではなく, 仮に被告との間で上記事項を確認したとしても, 原告らの主張に係る危険が, 被告の所轄行政庁の裁量に係る具体的な行政上の措置を経ることなく直ちに除去されるものでもない以上,

上記事項は確認の対象として適切な内容のものとはいえず, 被告との間で上記事項を確認することにっき原告らが主張する利益は, 事実上の利益にとどまり, 法律上の利益に当たるものではないと解されるので, 上記アに説示したところに照らし, 本件確認の訴えは, 確認の利益を欠くものと解するのが相当である。

(3) 以上によれば,本件確認の訴えは,法律上の争訟性を欠き,かつ,確認の利益を欠くものといわざるを得ず, その余の点について判断するまでもなく, 不適法であるというべきである。

3 本件賠償請求の成否(争点(2))について

(l)ア 原告らは,被告が,歯科技工士の資格を有する個々の原告らに対し,歯科技工士法上ないし条理上, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用の実態について調査し, その結果に基づいてこれらを止めるように指導すべき義務を負っているにもかかわらず, その調査及び指導を行わず, かえって, 本件通達を発出し, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用を許容しており, これにより,原告らは, 生活基盤である業務独占の崩壊の危険について不安を抱かざるを得ない状況に置かれ, 精神的苦痛を受けている旨主張する。

 イ 国家賠償法1条1項は, 国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公 務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務、に解 しで当該国民に損害を加えたときに, 国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するものであり, したがって,同項にいう「違法」とは,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいうものと解するのが相当である (最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。

 ウ そこで, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有 無等について検討するに, 前記1において説示したとおり, 歯科技工士法は, 歯科技工の業務の主体を歯科医師及び歯科技工士に限定する業務独占の規制を設けているが, これは, 歯科医療を受ける国民の健康を確保するため, 一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであって, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益を認めているものではなく, 国に対し当該規制に係る措置にっき何らかの請求等をし得る権利を認めてぃるものでもなぃ。 したがって, 一般に, 業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果, 歯科技工士法上又は条理上, 所轄行政庁においてその違反の有無について調査し, その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められるとしても, それは, 所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務に当たるものではなく, したがって,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地はないものとぃうぺきである。

 エ 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用は憲法14条に違反する旨主張するが, 歯科技工の業務独占の規制にっき所轄行政庁が個々の歯科技工士に対して負担する職務上の法的義務の存在が認められない以上,所論の当否にかかわらず,本件において,所轄行政庁の所為が原告らとの関係において職務上の法的義務の違反による違法と評価される余地のないことは,上記ウと同様である。

(2)ア また, 原告らは, 歯科技工の海外委託及び補てつ物等の輸入使用によって, 国民の公衆衛生が害されるおそれがあり, このことも歯科技工士である原告らに精神的苦痛を与えている旨主張する。

イ しかしながら, 上記の事柄は, 原告ら自身の権利又は利益に関わるものではない以上, ,海里茲Δ憤貳霧衆への影響についての抽象的な懸念に係る主観的な感情は, そもそも金銭賠償をもって慰謝すべき損害に当たらなぃとぃうべきであるし, ⊂綉の事柄を考慮しても, 歯科技工士法において, 個々の歯科技工士に対し, その個別的利益として何らかの法律上の利益が認められているものではなく, 国に対し業務独占の規制に係る措置にっき何らかの請求等をし得る権利が認められているものでもないことに変わりはないから, 上記主張は, 所轄行政庁の個々の歯科技工士に対する職務上の法的義務の有無に関する上記(1)ウ及びェの判断を左右するものでもない。

 (3) 以上によれば, 本件賠値請求は, その余の点について判斷するまでもなく,理由がなぃとぃうぺきである。

4 よって, 本件訴えのうち, 本件確認の訴えは, いずれも不適法であるから却下することとし, その余の訴えに係る請求は, いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61 条, 65条1項本文を適用して, 主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官 岩 井 伸 晃

裁判官 本 間 健 裕

裁判官 倉 澤 守 春


中国製入れ歯の輸入禁止求める訴訟、原告の歯科技工士敗訴

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080926-OYT1T00825.htm?from=main2

 中国製の安価な入れ歯や差し歯の輸入で、仕事が脅かされているとして、全国の歯科技工士80人が国を相手取り、海外への義歯製作の委託禁止と損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。

 歯科技工士法は義歯製作者を国内の歯科医師と歯科技工士に限定しているが、岩井伸晃裁判長は、「法は公衆衛生の保持を目的としており、個々の歯科技工士の利益を保護したものではない」と述べ、原告の請求を退けた。

 原告らによると、歯科医療の現場では近年、主に中国で製作された義歯が使われるケースが増えているといい、訴訟では「海外製の義歯は無資格者が作った可能性が高く、安全性も疑問」と主張した。しかし、判決は、義歯の輸入実態や安全性には踏み込まず、義歯製作の規制のあり方についても、「国の裁量に委ねられる」と判断した。

(2008年9月26日23時44分 読売新聞)


原告団及び弁護団声明

原告団及び弁護団声明

 本日,東京地方裁判所第2民事部(岩井伸晃裁判長)は,全国の歯科技工士80名が,国に対し,海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることを確認すること等を求めた訴訟において,原告らの請求を退ける不当な判決を下した。

 患者の口腔内に装着される義歯等は,なによりも安全なものでなければならない。そのため,歯科技工士法は,歯科技工士制度を設け,歯科技工士または歯科医師でない者(無資格者)による歯科技工を禁じるなど厳しい規制を及ぼすことで,粗悪な義歯等が作られることのないようにしている。ところが,昨今,海外に歯科技工を委託することが増えるに連れて,無資格者が海外で技工した義歯が輸入されて患者の口腔内に装着される事態が生じている。このような事態を放置しておくことは,歯科技工士制度の根底を崩壊させるものであり,国民の安全な歯科治療を確保しようとした歯科技工士法の趣旨を失わせるものである。

しかも,国内においては,歯科技工に利用する材料の安全性について厳しく規制されているのに対して,海外での歯科技工に関しては,日本自ら材料の安全性を検証することはできない。このように,歯科技工の海外委託には多くの問題点が指摘されているにもかかわらず,国は歯科医師の裁量に委ねるだけであり,実態調査すらもおこなわずに歯科技工の海外委託を放置している。

そこで,原告らは,国民への安全な歯科治療を守るために,国に対して,海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることの確認を求めるとともに,国は海外委託の実態調査すべき義務などに違反するなど違法な行為を行っていることなどを理由とする損害賠償を求めて提訴した。

これに対して,本判決は,歯科技工の海外委託の実態に何ら言及することなく,法律上の利益及び確認の利益がないといういわゆる入り口論で確認の訴えを却下するとともに,国は個々の歯科技工士に対して職務上の法的義務を負担していないとの理由で,損害賠償請求も棄却するという不当な判決を下した。

 原告らは,歯科技工の海外委託が許されないということについて明確な判断を求めたにもかかわらず,本判決はその判断を回避した。したがって,本判決によって歯科技工の海外委託が許されたわけではないことに留意すべきである。

 むしろ,本判決は,「一般に,業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果,歯科技工士法上または条理上,所轄行政庁においてその違反の有無について調査し,その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められる」と述べている。これは,無資格者による歯科技工等が認められる場合には,その違反の有無を調査し,それを止めるよう指導すべき国の責任を明確に認めたものである。

歯科技工の海外委託においては,無資格者による歯科技工が行われているとの問題点が繰り返し指摘されていることからすれば,国は,本判決が指摘したように,歯科技工の海外委託に関して違反の有無を調査し,それをとめるよう指導すべきである。

原告団及び弁護団は,本判決を不服としてただちに東京高等裁判所に控訴するとともに,本日の判決を機に,国民の安全な歯科治療の実現のために不可欠な歯科技工士制度を維持・発展させる見地から,歯科技工の海外委託問題を最終的に解決するために最後まで戦い抜く所存であることを表明し,本判決に対する声明とする。

2008(平成20)年9月26日

          歯科技工海外委託問題訴訟原告団 団長  脇 本 征 男
          歯科技工海外委託問題訴訟弁護団 団長  川 上 詩 朗


全国保険医団体連合会 談話 

報道各社・会 御中

冠省

本会歯科代表宇佐美宏は、本日東京地裁で出された「海外委託技工訴訟判決」について下記のような談話を発表しました。
ここにFAX送信します。

ご査収賜り、貴社・会メディアでご紹介いただきますようお願い申し上げます。

尚本件に関するお問い合わせは、
ご面倒でも本会事務局森
(TEL03-3375-5120、 Email:shigeru-mr@doc-net.or.jp)
までお願いします。
                        草々

                  全国保険医団体連合会 事務局 森 茂





2008年 9月26日
全国保険医団体連合会
歯科代表 宇佐美 宏

      東京地裁の海外委託技工訴訟判決に抗議する(談話)

全国の歯科技工士81人が、東京地方裁判所に起こしていた海外への技工物の 委託禁止などを求める訴訟の判決が9月26日午後1時15分に下され、「原告ら の本件確認の訴えをいずれも却下する」、「原告らの訴えに係る請求をいずれも 棄却する」とした。

私たちは全国3万7千余を擁する開業歯科保険医の団体として、厚生労働省 が「国外で作成された補てつ物の取扱いについて」(平成17年通達)を出して 容認している海外委託技工政策について、安全な歯科技工物を保険で安心して 供給・確保するという観点から、海外委託技工緊急調査を実施するなど海外技 工問題を社会に提起し、同通達の撤回を求めてきた。

また今日、輸入食品等の安全性が大きな社会問題となっており、食品や医薬 品をはじめ海外輸入物に対する国民の不安や関心は高まっている。

こうした中で出された、原告の訴えを却下し、その結果安全性の保障のない 海外委託技工物を容認することとなる東京地裁判決に、私たちは強く抗議する。 歯科技工物は、咀嚼・発音などの機能回復に重要な役割を有し、健康維持や 療養・介護にとって不可欠なことが近年の厚生労働科学研究等で実証されてき ている。

私たちは今後も、国内で安心、安全な歯科技工物を保険で確保するという立 場で、原告団などとも協力、共同して、安全性の保障のない海外委託技工物を 容認している厚労省政策の撤回を求めて運動するものである。

以上



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Last-modified: 2008-09-27 (土) 11:50:17 (3252d)