最近の歯科に関する報道には根拠が希薄で、
また一方的な見解のものが多数見受けれられます。
みな歯科としては事実を良く知らない方々に
誤解や不要な不安を抱かせないためにも、
歯科関連の報道の価値をズバリ評価したいと思います。
切り口の異なる3人の評価委員にそれぞれ0〜5までの
★をつけてもらい、そのコメントを書いてもらいます。
※このコンテンツは当NPOの見解を示すわけではありません。
複数の論評が皆様の歯科医療に対する理解の一助になれば幸いです。
エントリーナンバー3
朝日新聞:2009 年(平成21 年)4 月25 日
【歯科の診療報酬抑制は限界】
※この記事に関しては朝日新聞、日歯、双方の主張について検証を行う必要性を感じ、
「朝日新聞の主張、日歯の主張」
と題して検証評価を行いました。ぜひご覧下さい。
朝日新聞記事の検証と感想
↑クリック
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概要
朝日新聞から日本歯科医師会大久保会長へのインタビューという形式で、
2009 年2 月27 日付け朝日新聞記事に対しての日歯側の反論(?)を掲載している。
==診療報酬改定で何を期待しますか。
「歯科の診療報酬は正当な評価がされずに低い点数で抑えられてきた。
初再診料も医科と差がついたままで、従来の改定幅では新しい治療をやろうとしたら枠を超える。
結局、材料などの点数を治療費の中に含めることで事実上削って、
新しい項目に点数がつく余地を作っている。
自分の足を食べて生きてるようなものだが、限界に来ている」
==08 年度上半期の歯科医療費の伸びは前年同月比2.8%増。
医科の入院外(同0.1%減)や入院費(同1.9%増)に比べても大きい。
診療報酬を請求しやすいようにして伸び率を確保したのでは?
「改定幅を『膨らます』ことができるわけがない。歯科医療費には、
診療報酬改定幅以外に高齢化などによる自然増も含まれる。
伸びたのは受診者数が増えたからだ。
歯が大事だというので、60 歳以上の受診率が上がってきている。
ブリッジなどのかぶせものに使う金属価格の高騰もあった。
したがって医療費が結果として改定率を上回っている事実を言ったまでだ。
中医協(中央社会保険医療協議会)の議論は公開されているし、
何か裏で作業をして上回ったわけではない」
==しかし、点数の原案は厚労省が中医協に出す前に決め、
算定基準もあいまいという声が多い。
診療報酬の細部の運用も、役所の「通知」で患者に見えない所で決められています。
「例えば、患者に治療内容を文書で示すことを義務づけた規制の緩和は、
医師には書類を書く負担が大きいし、
患者からも不要という声もあって中医協で議論され決ったものだ。
前の06 年度改定が余りに過剰な情報提供を医療側に求めた部分が少しずつ適正化された。
それに通知で出されていることが全部、医療側に有利なことだけではない」
==歯科は不正請求での保険医取り消しが医科に比べて多い。
支払い側が納得できる踏み込んだ改革が必要ではないのではないですか。
「不正をする者を守るつもりはない。ほとんどの歯科医師は、
まじめに治療しているから、いろんな悩みがあるわけだ。
政府は医療を国の基本と位置づけて、公費負担を増やしてほしい。
3 割の窓口負担は限度に近い。政治家が、財源が必要と消費税増税を訴え、
国民に納得してもらわないといけない。
医療側も新しく提供する医療サービスの中身を示す責任がある。
今回作る検討委員会では、患者の視点を意識しながら
あるべき医療の姿の議論を深めるつもりだ」
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★★☆☆☆ stardust氏
やはり「言ってしまったこと」は、そう簡単には消えないものですね。
というか、マスコミはそこを攻めて来ます。
マスコミからは「歯科界は、歯科医院の数は抑制せずに、
1軒当たりの取り分が減ったから、歯科医院が増えた分だけ点数上げろ」と
取られる(誘導されている?)恐れも。
今回立ち上げる委員会では、「患者の視点を意識しながら」議論するとのこと。
たいへん宜しいことですが、患者「さん」が抜けている気も・・。
本来、訴えるべきは「真面目にやるほど経営が苦しい」
「このままでは良質で安心、安全な歯科医療が提供できない。
そのために改善を。」ということではないか。
★☆☆☆☆ jarow氏
2009/02/27付の「医療の値段『保険村』の闇」への抗議を受けてのインタビューだろうが、
「アリバイ」作りのためとしか思えない内容である。
見出しだけは、日歯に配慮したようにしているのに質問は一方的なものばかりだ。
受け手の感情や価値判断を暗黙に刺激するkey wordを文中にひそませ、
ちりばめることで論理によらずに受け手を操作しようとし、
読み手に話題・論題への先験的な感情を惹起させようとしている。
これは、充填された語(loaded language)という
情報操作やプロパガンダの手法として使われる「詭弁」のひとつである。
(参考「詭弁」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
==しかし、点数の原案は厚労省が中医協に出す前に決め、算定基準もあいまいという声が多い。
診療報酬の細部の運用も、役所の「通知」で患者に見えない所で決められています。
「患者に見えない所で決められて」いるのは確かであるが、
現場の医療従事者からも見えない所で決められているのが実態。
(要するに役人だけで決めている)
この点に対して、日歯が、明確に意見を言えないところに
現行制度の根本的な問題がある。
この程度の記事で「禊ぎ」を済まさせてしまった日歯の戦略のなさを
世間に知らしめただけ。
朝日担当記者★★☆☆☆ ironface氏
大久保会長 ★★★☆☆
大久保会長が、どの様な経過でこのインタビューと紙面掲載の機会を得たかが第一の興味であるが、
今回はそれを問うまい。
「初再診料」問題については、医科と歯科では「椅子の値段」が違う、
紙コップもタダでは無い、あの強力なライトの電球も高価等々、
国民に理解して欲しい、伝えなければならない切り口も示してほしかったが、
日歯会長の口から出る言葉としては、余りに卑近で無理な要求か。
歯科の「初再診料」は、医科よりも高くなるのが理の当然と思うが、
主張される歯科医師は少ない。
表「歯科と医科の医療費の伸び率」に、
朝日担当記者の真意が隠されているのかと邪推したくなる。
貴金属材料の国際市況や為替相場にワンテンポ遅れで影響される
歯科医療費の特性の基礎知識の説明が無ければ、
読者を意図的にミスリードする材料として有効に働きかねない。
記者には、『統計でウソをつく法-数式を使わない統計学入門』
(講談社ブルーバックス)を、贈りたい。
点数改定の仕組みと実際の運用に関して厚生労働省・中医協に糾すべき事を
大久保会長に問うのは、筋違いと担当記者には伝えたい。
「不正をする者を守るつもりはない」との大久保会長の言葉を、
全国の会員と地方歯会役員はどの様に理解するか、
或いはそれを実行した時、
組織は耐えられるのか?
「誰もが納得する医療の負担とサービスのあり方を考える委員会」、
「患者の視点を意識しながらあるべき医療の姿の議論を深める」という委員会、
国民との対話の回路を持たず分断され孤立無援の歯科界を再生するために、
大久保会長には本来の意味で敢えて火中の栗に挑戦する姿を見せて欲しい。
★★☆☆☆ rikan氏
朝日新聞の大久保会長へのインタビュー記事に関しては、
別の評価ライターや別立てのコンテンツで素晴らしい分析や論評を、
この会として出せると思うので僕としてはやはり一番「問いたい」ことをコメントさせていただく。
活字マスメディアの「記事」は多くの場合単なる「報道」でなく、
そこには必ず要素の多寡に関わらず「意図」が混入される。
今回の記事において大久保会長の
談話をマスキングして朝日側の質問と締めの文章だけを並べて読んでみるがよい。
それが「彼等」がこの記事で言いたかったことなのである。
その意味では興味深い記事ではある。朝日側が歯科医療というものをどう考え、
どうあるべきと思っているのか、ということが窺い知れる。
過激なコメントを付けさせて頂ければ、僕の最大の関心事は、
この記事が単なる朝日側の理解知識不足なのか確信犯的なものなのか、
ということなのである。
あなたの意見を聞かせて下さい
- 歯科医師ワーキングプア、歯科大学志望者激減、新聞による歯科バッシングと、タダでさえ疲労している歯科界に追い討ちをかけるような攻勢が続きます。なぜ?? --
エントリーナンバー2
木村太郎氏の発言
概要
2009年1月23日のFNNのニュース番組で木村太郎氏が
北海道の歯科医院での実質負担金が無料になるという
システムが行われているとのニュースのコメントで
「今の歯医者さんは3割を取らなくても
7割で儲かるという仕組みを作ったわけですよね。
ということは、定められた治療費が実は3割高いんだと。
そういうシステムがないところで払っていても3割高い。
そこに、主な問題があるのではないですかね」と発言した。
関連情報
http://ucgi.tokyo-sk.com/news/kiji/1236250581_43190.html
★☆☆☆☆ stardust氏
実際、問題の札幌の医院では、それで儲けようとして、
実際儲かっていたのだろうから、勘違いされても
仕方ないかな、とも思う。
問題なのは、「不正な請求をすれば」7割でも儲かった
のだろうが、正しく真面目に請求すると10割でも
苦しくてやっていけないことが、全く知られていない
こと。このことを周知させる必要がある。
☆☆☆☆☆ jarow氏
事実誤認で見当違いも甚だしい。コメントをする
対象にすらならない。このひとに限らないが、
「キャスター」「コメンテイター」と呼ばれるひとは、
不勉強なくせに自分勝手な発言をすることが
少なくない。いっそのこと、ニュースはアナウンサー
が原稿を読むだけにしたほうが世のため。
★☆☆☆☆ rikan氏
この発言の最も詭弁的な箇所は、北海道の歯科医院の事件を
歯科保険医療全体の構造的問題として何等データの検証を
加えることなく論理展開している点にある。
氏の発言に報道の真実性を主張されるものならば、
平均的な保険医療主体の歯科医院における一ヶ月の
点数を30%削減して、そこにかかるホスピタルフィー
を除した結果「儲け」が出ることを是非検証して
いただくことを切に願うものである。
★☆☆☆☆ ironface氏
木村太郎氏に関しては、余り興味は無いが、
今回の出来事から、「キャスター」「コメンテイター」
と同席し、己の主張を行わなければならない立場にいる
場合が多い、医師・参議院議員の桜井充氏や小池晃氏の
タフさと論理力の強さとある意味礼儀正しさと
我慢強さを再確認した思いだ。
木村太郎氏のコメントに関しては、我が身を振り返り
未知の分野への発言に対しては、
抑制的・禁欲的であらねばと思いを強くした。
発言自体は、得るものが無く星一つ。
あなたの意見を聞かせて下さい
- 報道も問題だが、この医療機関に対して何もしていない(何かしているかもしれないが全く伝わってこない)歯科医師会や保険医協会に失望です。 --
- 歯科では保険でまともなことはできないという事実、この一点をひたすら粘り強く国民に啓蒙するよりないと思います --
- 逆に保険でまともにやって欲しければ点数を上げるしかないことを啓蒙する --
エントリーナンバー1
朝日新聞記事
概要
2009年2月27日の朝日新聞朝刊経済欄(15面)に“医療の値段「保険村」の闇”
さらに、政策欄(7面)“歯科医療費 改定幅超す伸び”という記事が
掲載された。小見出しには「歯科医学会長、請求上げ幅膨らませた」
などと書かれ、08年度改定では歯科全体の伸びを0.42%と決めていたにも関わらず
江藤日本歯科医学会会長がその講演で「学会が実際の診療報酬の請求の上げ幅に
膨らみを作る役割をした」と語ったとし、実際には3.4%も伸びたと報道している。
また診療報酬の決定は密室で行われ、国民の不信解消が進まないと指摘し、
さらに”医療の値段「保険村」の闇」”では「患者に見えない
ようにひねり出す」「水増し・不正請求の横行」と小見出しをつけ、
内部に詳しい関係者が語るという形で歯科医院の不請求の実態(?)を暴露。
報酬改定が国民不在のエゴのぶつかり合いだと指摘している。
この記事に対し日本歯科医師会の大久保会長は3月5日付けで
抗議文を提出している。
★★☆☆☆ stardust氏
密室と思われたこと自体が、今までの医療側の行動と
発言の集大成。当然の誤解。
我々歯科医師でも、ちゃんと説明したつもりなのに、
患者さんには全然理解されていないことがあるのと同じ。
いい反省材料だと思う。
★★☆☆☆ jarow氏
事実も書いている点は、評価できる。
ただ、木を見て森を語っている。
診療報酬の改定は数十年の間に何回も行われているのに去年のことしか調べていない。
行政の諮問機関の構造的な問題は中医協に限らない。
国の政策決定のあり方自体の議論を励起してほしい。
記事に「『負担増』が避けられない時代に、
公的保険への支持を保つには『負担が密室でのさじ加減で決まっている』
という国民の不満を解消することは急務だ。」
とあるが、大幅な「負担増」が決まっているわけではない。
「負担増」が避けられないのに、
みんながその議論を避けてしまっているから
「密室でのさじ加減」で小手先の改定を
しなければならない現状がある。
朝日新聞さん、
「負担増」というなら、朝日新聞が音頭を取って、増税が
不可欠だというキャンペーンを始めてみてはいかがですか?
★☆☆☆☆ rikan氏
「歯科医療費改定幅越す伸び」
新聞の記事を読むときに、ヘッドライン・サブヘッドラインの大きさと語感を検証する癖がついている。
何故なら細かい記事内容がどのようなものであろうと、
まずその記事を眼にした人間にとって最も記憶に残るイメージはヘッド・サブヘッドだからだ。
この記事においてヘッドとサブヘッドだけを抽出して、
その意味を並べると、こうなる。
「歯科医療費が増加した」「歯科医学会会長が語る・請求上げ幅を膨らませた」
この大きな太文字が眼に飛び込んでくる読者の意識化に刷り込まれる効果は
簡単に想像でき得る。
記事の内容に関しては06年改定の異常さに関しての比較内容が皆無なこと、
患者に交付する文書の有用性の検証・現場への過酷な負担、
再歯周処置の有用性・かつての歯周治療システム、歯周外科が本来一歯算定だったものが
過去の改定でブロック単位に問答無用に切り下げられたこと、
などが全く触れられていないことが報道の正確性を欠くとして★ひとつとする。
「密室での値決め」
★★★☆☆ rikan氏
ヘッドラインの「密室」「値決め」という文言はいただけないが、
診療報酬決定過程の問題点に切り込んだ報道姿勢は評価する。
結びの「密室でのさじ加減で決まっている」という一文は、
そこからさらに「では密室では無く、何処でどのように決められることがより望ましいのか」
という一文に続く筈であるのに、そこで止まっている点を★二つ減じた。
★★★★★ ironface氏
「予め定められた歯科一人負けレース開始を告げる鐘が鳴った。」
この記事で、誰が利益を得るのか?
この記事は、間接的にであれ誰の資料提供・サゼスチョン・協力が生きているのか?
図「診療報酬を巡る構図」に、出身大学まで書き入れる意図は?
訪問診療「7つ道具」写真の意図は?
14日付け「医療Gメン 届かぬ目」には、
表「歯科Gメンの数と、02〜07年度の監査回数」があるが、
これも一連のものと考えるか?
編集委員・西井泰之氏の公式の意図説明は、16日付け補助線
「診療報酬「差益ビジネス」が問うもの」で十分と考えるか?
一つひとつの独立した記事としては、一般紙としては誤報ではない。
ここまで書かれる弱点を歯科の側、医療側が持っている。
次回改定に向け、予め定められた歯科一人負けレース開始告げる鐘が鳴った。
反転攻勢のためには、歯科の側の国民に説明できない既得権の放棄と
国民に根拠を示し同意を得られる診療報酬体系の構築が、
困難且つ地味であっても必須と思われる。
田辺記者退職後の、朝日の新スタンスを示した記事と解釈すると、
田辺元記者を買い被っているだろうか。
「あちら側」の着目点を知る貴重な情報として、
これからの展開に期待して、星五つ。
あなたの意見を聞かせて下さい
評価委員紹介
評価委員No.1 stardust氏
冷静沈着な分析で評価を下す。
評価委員No.2 jarow氏
辛口批評でばっさり斬る。
評価委員No.3 rikan氏
人情味あふれる浪花節の評価が人気。
評価委員No.4 ironface氏
歯科医師でないからこそ見えるその本質。